令和元年(2019年)、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)が改正されました。
動物愛護管理法は5年に一度改正されますが、令和元年の改正ポイントの1つ「マイクロチップ装着の義務化」について分かりやすく解説していきたいと思います。
犬猫の「マイクロチップ装着の義務化」のポイントと内容
「マイクロチップ装着の義務化」は、令和元年の動物愛護管理法改正の大きなポイントの1つです。
昨今の日本のペット事情を鑑みれば、義務化に至った経緯や必要性は納得できます。
それではさっそく、法改正について解説していきますね。
<令和元年の改正>
犬猫等販売者は、犬又は猫を取得したときは、環境省令で定めるところにより、当該犬又は猫を取得した日(生後90日以内の犬又は猫を取得した場合にあっては、生後90日を経過した日)から30日を経過する日までに、当該犬又は猫にマイクロチップを装着しなければならない。
(第39条の2)成立:令和元年6月12日
交付:令和元年6月19日
施行:令和4年6月(予定)
ポイント1・義務化は犬猫等販売者から
令和元年の改正では、犬猫等販売業者(第一種動物取扱業者)…いわゆる
- ペットショップ
- ブリーダー
に対して、犬猫へのマイクロチップ装着と情報の登録が義務化されました。
装着しなければならない期日が決まっている
ペットショップやブリーダーが取得した犬猫にマイクロチップを装着するタイミングも決められました。
ペットショップは、犬猫をお店に迎えたその日から30日以内の装着が義務となります。
生後90日以内の犬猫の場合は、生後90日を過ぎてから30日以内の装着が必要です。
ブリーダーのもとで生まれた犬猫については、生後91日~100日の間にマイクロチップを装着する義務があります。
ポイント2・装着した後は必ず「登録」すること
マイクロチップは装着するだけではいけません。
装着後に「登録」をして、はじめて義務を果たすことになります。
登録先は環境省が定める指定登録機関、現在は「AIPO(動物ID普及推進会議)」となっています。
また、ペットショップやブリーダーは犬猫を販売する際、登録時に発行される「登録証明書」を新たな飼い主さんに渡して、飼い主さんは30日以内に登録情報の変更をしなければなりません。
一般の飼い主さんに対しては
その所有する犬又は猫にマイクロチップを装着するよう努めなければならない
と、マイクロチップの装着は努力義務ではありますが、装着した場合には「AIPO(動物ID普及推進会議)」への登録は義務になりますので注意です。
ポイント3・狂犬病予防法とのワンストップ化
施行後にはマイクロチップが鑑札代わりとなる「ワンストップ化」のしくみもつくられました。
今現在、犬猫が生まれたり迎え入れたら市区町村に登録して鑑札をもらいますが、マイクロチップ装着が義務化されると、マイクロチップ情報の登録や登録変更があった際に、「AIPO」から市区町村に通知が行くようになるので、市区町村に届出する必要がなくなります。
ただし「AIPO」と市区町村が、狂犬病予防法に基づく登録とマイクロチップ情報を連携させる調整をした場合に限られるとの事です。
市区町村によっては、届け出をしなきゃいけない場合もあるってことね
法改正の背景
なぜ令和元年の法改正で「マイクロチップの義務化」が採用されたのか、今の日本のペット事情や環境などの変化や流れについてお伝えしますね。
ペットを守る「個体識別」
今も記憶に新しい東日本大震災や熊本地震、そして近年頻発している豪雨や台風による災害で家屋が倒壊し、ペットが逃げてしまった、迷子になってしまったケースが数多くあります。
また、玄関や窓を開けた瞬間にペットが飛び出し、そのまま迷子になってしまうことも。
また、とても残念で悲しいことですが、飼い主自身が大切なペットを故意に山や店舗の駐車場、道端に置き去りにする事例もあります。
これらを予防するために、マイクロチップの装着の義務化はとても有効な手段だと思います。
自然災害などで逃げ出してしまった、離れ離れになってしまったペットが飼い主の元に返される、戻ってくるパターンの多くは「個体識別ができたから」であることも忘れてはいけません。
また、日本ではブリーダーから飼い主さんが犬猫を迎え入れるまでの流通過程が明確でないのが現状です。
ブリーダーからペットショップに来るまでにもいくつも仲介者が入ることもあります。
そのため、その子がどのような環境で育ったか、遺伝性疾患はあるのか無いのかなどの情報を飼い主さんは知ることが出来ません。
このような観点からも、ペットにもトレーサビリティ(追跡調査できるしくみ)を導入するべきという声が上がっていたそうです。
ドイツやイギリスなどのペット先進国では、すでにマイクロチップ装着は義務付けられていますが、日本もようやく先進国に追いついてきつつある…といったとこでしょうか。
まだまだペット先進国とは程遠いですが、一歩ずつ近づいていければいいなと思っています。
法改正までの経緯
個体識別については、これまで長い年月をかけて段階的に改正されてきましたが、牛歩の歩みであったことは間違いないと思います。
昭和48年に制定された動物保護管理法では、「この犬・猫は私のペットです」という所有明示、個体識別については触れられていませんでした。
それから25年以上経った平成11年の法改正でようやく
動物の所有者は、その所有する動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするために措置を講ずるよう努めなければならない
と規定されました(努力義務ですが)。
でも、平成15年の世論調査では、飼い主の7割が所有明示をしていなかったそうです。
平成17年にも法改正があり、所有明示の規定に
環境大臣が定めるものを講ずるよう努めなければならない
と追記されました。
そして、翌年の平成18年には
動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置について
と、環境省から告示が出されたのです。
この「動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置」の具体的な識別器具として
- 首輪
- 名札
- マイクロチップ
- 入れ墨
- 脚環
など「所有明示するために動物に装着し、または施術するもの」が挙げられています。
が、ペットに携わる仕事をしている身としても、飼い主目線であっても「入れ墨」はするべきではないと思います。
犬や猫の体、皮膚に負担ですよね。
平成18年くらいはまだまだペットはペットであり、家族ではなかった時代なんだなぁとしみじみ思いました。
首輪や名札は付けている犬・猫も多いですが、これが「個体識別」になるかといえば、ちょっと心許ない気がします。
首輪に名前がない、首輪や名札には名前だけで連絡先がないことも多いですし、今では個人情報にシビアな時代になっているので、首輪や名札に住所や電話番号を明記するのをためらう飼い主さんも多いです。
なので、首輪や名札は個体識別にはならないため、やはりマイクロチップが今のところ1番の個体識別方法でしょう。
さて、その後平成23年には所有明示は災害時に重要な措置であることが追記されました。
平成23年は、そう、東日本大震災があった年ですよね。
東北地方では多くの家屋が倒壊・損壊し、離れ離れになってしまった飼い主さんとペットがたくさんいて、その中で再会できたのはマイクロチップ装着していた犬や猫が圧倒的に多かったのです。
こういった背景、経緯があって、今回の令和元年の法改正で「マイクロチップ装着の義務化」になったのですね。
令和元年の法改正「マイクロチップ装着の義務化」まとめ
- マイクロチップの装着と登録が義務となるのは、ペットショップやブリーダーなどの「犬猫等販売業者」
- 一般の飼い主さんは「装着は義務努力」だけど、装着したら登録は義務
- マイクロチップ装着の義務化の施行は令和4年6月
- マイクロチップ装着が義務化されるのは「飼い主による遺棄や盗難を予防するため」「逸走や迷子などの際に所有者であることを示すため」
マイクロチップの装着は、ペットを守るもの、ペットと飼い主さんを繋ぐものです。
公布から施行まで3年もかけず、速やかに施行すべきだと思うのは私だけでしょうか。
一刻も早く、日本がペット先進国になってほしいと願います。
愛玩動物飼養管理士になったら、ペットの幸せを1番に考えてあげて欲しいです。
災害時にペットとはぐれてしまうケースが多いです。
防災グッズはしっかりと準備しましょう。