暖かい時期になったらしっかり対処しておきたいフィラリア予防。
フィラリア症は血液循環障害を起こす怖い病気です。
愛犬の健康のためフィラリア症の知識と予防について理解を深められるように、動物看護士の資格を活かして今回も丁寧に詳しく解説してきますね。
フィラリア症(犬糸状虫感染症)とは?
フィラリア症は蚊が媒介する、心臓病を引き起こす唯一の寄生虫です。
人獣共通感染症(ズーノーシス)ですので、犬だけでなく人や他の動物にも感染します。
予防・駆虫もできますが非常に怖い疾患ですので、しっかり理解して愛犬の健康にお役立てくださいね。
フィラリア<犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)>の特徴
オス 12~20cm、メス 25~31cmの細長いソーメン状で、心臓や心臓と肺を繋ぐ肺動脈に寄生します。
メスの成虫は心臓や肺動脈内でオスと出会うと血液中に幼虫を産みます。この生み出された幼虫のことを【ミクロフィラリア】といいます。
蚊が吸血する時にこのミクロフィラリアも一緒に吸い上げて、蚊の体内で約2週間かけて2回の脱皮をして感染力のある幼虫(感染幼虫)になります。蚊が「中間宿主」になるというわけですね。
ただし、ミクロフィラリアが感染幼虫になるためにはある程度暖かい温度が必要となります。春から冬の初めまで予防をする、冬の間は予防の必要が無いのはそのためです。
感染力が強くなった幼虫は蚊の器官(蚊が吸血する時に肌に刺すストロー上の細長い管)へ移動して寄生先へ移る準備をします。
そして、蚊が犬に吸血する時にミクロフィラリア犬の血管の中に移っていきます。
ミクロフィラリアが成長してフィラリアになり、犬の体に症状が出るまでの潜伏期間は数年~10年以上です。
今、何でもないからと検査もせずに放置していると長い潜伏期間を経て発症することもあるので、必ず毎年検査をしましょう(検査については後述します)。
フィラリア症<犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)感染症>の症状
感染初期には咳や呼吸が速まるなどの呼吸器症状が出ます。
病状が慢性的になると呼吸器症状に加えて
- 被毛の状態が悪くなる
- 元気がなくなる
- 食欲不振
なども現れてきます。
さらに病状が悪化して末期になってしまうと
- 血尿
- 腹水が溜まる
などの症状も加わり、治療をせず放置すると循環不全で亡くなってしまう怖い病気です。
また、多数のフィラリア(犬糸状虫)が心臓に寄生してしまうと、心臓の弁に虫が絡まり、さらには血管までも塞いでしまうため、突然死する危険性もあります(急性フィラリア症)。
フィラリア症(犬糸状虫感染症)の検査、診断
フィラリアの検査は一般的に動物病院で行います。
検査は大きく分けて2つあり
- 血液を採取して、血液中のフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)をいくつかの方法により検査
- 抗原検査キットで犬フィラリア抗原を確認して、心臓にフィラリアが寄生していないかを調べる検査
毎年きちんと予防をしているワンコはミクロフィラリアの検査だけで大丈夫ですが、保護犬などで予防歴が分からない子や予防のお薬を飲み忘れて何ヶ月か経ってしまった子は、成虫による心臓への寄生がないか抗原検査をする必要があります。
いつフィラリア検査をするのか、最適な時期とは?
一般的な「フィラリア検査」と言えばミクロフィラリアの検査を指します。
一般的な飼い主さんの認識として、フィラリアの検査をする理由は
フィラリア予防薬をもらうために、フィラリア検査をするのよね。
検査が陰性じゃないとお薬が飲めないもんね。
というものだと思います。合っています^ ^
では、そのフィラリアの検査はいつ頃行うのが最適なのでしょうか。
フィラリアは蚊が媒介します。なので、蚊が飛んでいる時期に感染(寄生)してしまう可能性があるということですよね。
お住まいの地域によって気温の差がありますので、具体的に何月からというのは断言できないのですが、おおよそ4月~12月くらいの間が蚊の飛ぶ時期として一般的でしょうか。
ですので、蚊が飛び始める時期4月~5月頃に検査をして、昨年フィラリア感染していないかを調べた後に今年も予防薬を飲み始めるとう流れになります。
ミクロフィラリアの検査の種類
ミクロフィラリアの検査には4つの種類があります。
そのうちの2種類は今はあまり用いられていませんが、4つまとめてご紹介しますね。
1. 直接法
採血した血液を1,2滴スライドガラスに垂らし、顕微鏡で見てミクロフィラリアがいないか確認する方法です。
メリット
- 顕微鏡があれば特殊な検査機器が必要ないので、簡単に検査することができる
- 短時間で検査結果がわかる
- 特殊な検査ではないので、比較的安価で検査ができる
- ミクロフィラリアがたくさん寄生している場合には、手間・時間・効率の面で良い方法である
デメリット
- 1,2滴の血液しか使わないので検出率が低い(その1,2滴の中にはいなくても他の血液の中にはいる可能性がある)
- ミクロフィラリアの数に左右される
- フィラリアの成虫が寄生している状態でも何らかの理由や条件によりミクロフィラリアを産めない状況であれば、寄生しているのに検出されないという結果になり得る(条件が揃えば産んでミクロフィラリアが育ってしまう)
2. ヘマトクリット法
【ヘマトクリット管】というガラス管に血液(直接法よりも多い量)を入れて、遠心分離機にかける方法です。
遠心分離すると、血球層(赤血球・白血球・血小板)と血漿層(けっしょうそう:ほぼ水、その他タンパク質を含む生命維持に欠かせない物質が入っている液体)に分かれます。
血球層は赤色、血漿層は透明に近い液体です。
ヘマトクリット管を顕微鏡で見て、ミクロフィラリアがいないか確認します。
ミクロフィラリアいる場合には、血球層と血漿層の境目あたりにふよふよと漂っていますよ。
メリット
- 直接法よりも多くの血液を使うので検出率が高い
デメリット
- 遠心分離に時間がかかる
- 手間とコストがかかるので、直接法よりも費用が高い
- 直接法と同様、何らかの理由や条件で成虫がミクロフィラリアを産めない状況であれば、誤った検査結果になる可能性もある
3. フィルター集虫法(今はあまり採用されていない)
専用の検査キットが必要ですが、検出率は高い方法です。
希釈液で希釈した血液を専用キットのフィルターを通して、フィルターにミクロフィラリアが引っかかっているかどうか顕微鏡で確認する方法です。
専用の検査キット購入など費用がかかるため、現在ではあまり採用されていない検査方法です。
4. アセトン集虫法(今はあまり採用されていない)
血液を専用の試薬(アセトン)に入れてミクロフィラリアを染色したのち、遠心分離機にかけます。
何度か洗浄して残った沈殿物の中にミクロフィラリアがいないか、顕微鏡で検査します。
コストとそれ以上に点がかかるので、こちらも現在はあまり採用されていない検査方法です。
ちょっと豆知識:ミクロフィラリアのオカルト感染
検査方法のうち「直接法」と「ヘマトクリット法」のデメリットとしてお話しした
成虫が何らかの理由や条件によりミクロフィラリアを産めない状況
も含まれる【オカルト感染】についてお伝えしておきますね。
豆知識程度に聞いておいてください^ ^
オカルト感染とは
フィラリア成虫が犬の体内に寄生しているにもかかわらず、検査してもミクロフィラリアが検出されない状態のこと
※「潜伏感染」ともいいます
オカルト感染の原因は次のようなものが挙げられます。
- オスかメスのどちらかしか寄生していない
- 成虫のオスとメスどちらも寄生しているけれど、まだ生殖能力がない
- ミクロフィラリア(子虫)から成虫になったけれど、予防薬の影響で生殖能力が不能
- 予防薬でミクロフィラリアだけが駆除されて、成虫が残った
- ミクロフィラリアの日内変動によるもの(午後10時~午前2時の間が多くなる時間帯と言われている)
- 犬自身の免疫力でミクロフィラリアを自力駆除した
ミクロフィラリアの検査で陰性であってもオカルト感染の可能性もあるので、先述のとおり、保護犬などで予防歴が分からない子や予防のお薬を飲み忘れて何ヶ月か経ってしまった子は、成虫による心臓への寄生がないか抗原検査をする必要があります。
フィラリア成虫の検査
フィラリア成虫の寄生有無の検査は、主に【抗原検査キット】を用いて行います。
メスの成虫だけが放出する特殊な抗原を検知するための検査です。
メリット
- フィラリア成虫のみ(ミクロフィラリアはいない)でも寄生の有無がわかる感度の高さ(検出率約90%)
デメリット
- 5ヶ月未満のメスの成虫は検出できない
- オスの成虫を検出できない(メスが放出する抗原に対して反応するため)
フィラリア予防薬はいつから飲む?何ヶ月続ける?
ミクロフィラリアやフィラリア成虫検査で陰性が確認されたら、いよいよ予防を始めていきましょう。
フィラリア予防薬は蚊が飛んでいる7~8ヶ月の間毎月飲む、または滴下する必要があります。
4月か5月から始めて、11月か12月まで毎月続けることになります。いつまで続けるかは獣医さんの指示に従ってください。
我が家のかかりつけの動物病院では、5月下旬から始めて11月下旬まで続けるよう指示されます。11月下旬に飲む・滴下すると1ヶ月効果が持続しますので、12月下旬まで効果が続くということですね^ ^
フィラリア予防薬の種類(投与方法)は大きく分けて4つあります。
- 錠剤
- チュアブル錠
- 滴下薬(スポットタイプ)
- 注射 ※1回で12ヶ月効果持続
錠剤、チュアブル錠、滴下薬がメジャーですね。
ワンちゃんによってどの予防薬が合っているか好みがあるので、愛犬に合ったものを選んであげてください^ ^
なお、注射は6ヶ月未満の子犬やシニア犬、闘病中で免疫力が落ちている子には出来ませんのでご注意ください。
フィラリア予防は獣医さんの指示を守り、毎月しっかりと予防薬を投与してあげてくださいね。
「大丈夫だろう」と怠って、万が一フィラリアに寄生されてしまうと可愛い愛犬が命の危険にさらされる可能性があります。
狂犬病ワクチン・混合ワクチンと併せて、獣医さんに指示を仰ぎ、適切に対応しましょう。